ライトな物書き♪
日向唯稀(&兎田颯太郎)
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20160409140


「乘兒さん。皆さん。夕飯の支度が整いましたよ!」
 泣く子も黙る鬼東会系宿城組・本宅住まいの極道たちには朝夕二度の試練がある。
 それは、美人で素直で、極妻から建築会社の社長業までパワフルにこなす男姐・颯生が作る飯だ。
(わ! 銀シャリだ。何も炊き込まれていない白米だ! 超ご馳走だ!)
(慌てるな! 見た目だけで判断して、食ってから地獄に落ちた過去の日々を忘れたのか)
 食卓を見てはしゃぐいい年の舎弟を以心伝心のアイコンタクトで制したのは、組長たる宿城乘兒。
 命を預かる組員たちに、なんの因果か毎日命を懸けさせる羽目になってしまった、BL界一気の毒な攻め様だ。
 当然本人も命懸けだ。
(は! そうでした組長。以前の白米には、栄養補給をどうこうって、粉ミルクが大量投入されていたんでした)
(――だろう。それに、この一見普通の豚汁っぽいものだって、本当に豚なのか何で出汁を取ってるのかわからない。このサンマの塩焼きだって、俺たちが知らないだけで、形が似ている深海魚かもしれないぞ。それに、あの卵焼きは危険度マックスだ。綺麗なときほど、舌も心もが痺れる!)
(はいっ。組長。そう言われると、そうですよね。揚げ出し豆腐だって、本当に本体が豆腐なのか、あやしいですものですからね……)
 そう。何が彼らの試練と言えば、もうおわかりだろう。
 姐の作る飯が、例えようもなくマズいのだ。
 見た目だけなら料亭旅館のような料理を作るのに、家族を思って選ぶ食材が突拍子もないために、とにもかくにもマズい。
 ただ、作った本人は無限にゆるい味覚を持っているためか、何を食べてもマズいとは思わない。なんの幸か不幸か、姑たる大姐まで飯マズでゆるい味覚なので、以下同文。
 おかけで、颯生は未だ自分の料理が愛する夫や組員たちの苦行となっていることに気付いていない。
 しかも、極たまにとっても誰の味覚に合うものを作るときがある。が、これが最大の地雷だ。
(え!? 嘘。ウマい! あっちもこっちも全部ウマい! 豚汁も本物だ! ちゃんとした豚と野菜だ。出汁も普通だ!)
(サンマがちゃんとしたサンマですよ、組長!! 何がどうして、全部ウマいんですか!?)
(わからない。ただ、真性の飯マズなお袋が、海外旅行で留守だからな。あ! もしかしたら、これが極楽院の言っていた〝奇跡の味付け日〟ってやつか!? 変に気を遣わずに、特別なことをしない〝嫁的には手抜き料理〟が並んだ日。しかし、食う側にとっては極上にウマい神回!)
(そうなんですね! ラッキー!!)
 これぞ、地獄に仏。鞭・鞭・鞭の中の飴。この幸せと、にっこにこで美しい姐・颯生の笑顔があるから、乘兒も組員も耐えるのだ。

 とはいえ――。

(……組長。それにしても変じゃないですか? 極上飯が今日で三日ですよ。そもそも奇跡って、こんなに続くものなんですか!? 百回に一回ぐらいだから奇跡とか神回って言うんじゃないんですか!?)
 一度は偶然、二度目は奇跡。だが、三度続いたそれは必然だ。疑ってかかれと誰かが言った。
 誰が言ったのかは、このさいどうでもいいが、飯マズの嫁の飯がウマいのは大問題だ。
(もしかしたら、お袋だけが飯マズの原因だってことか?)
(いや。それでしたら、二十三回忌の悲劇はなかったはずですよ、組長)
(なら、実は颯生はまともで、変なのは弟の穂純だけだったとかは?)
(――それより組長が愛想を尽かされてるってことはないんですか? 愛情が溢れすぎた結果が、飯マズになるんですよね? ってことは、愛情がなくなったら……)
 なぜなら、こんな疑惑まで組員たちから浮上する。
(そんなわけねぇだろう! 昨夜だって俺たちはラブラブだったし、颯生だって屋久杉の大黒柱より俺が好きだって、はっきり言ったぞ!)
(組長。いくら姐さんが度を超したウッドフェチだからって、そんなことを聞いたんですか?)
(いつの間にか愛の基準が大間違いなことに……。組長、こんなにイケメンなのにっ!)
 我が殿、我が命、我が自慢。だったはずの組長が、今となっては――この有様だ。
(でも、そしたら、味覚障害を起こしているか、それに拘わるような、ご病気なのでは!?)
(病気?)
(その可能性は否めませんよ。味覚云々もありますが、料理に手間をかけられなくなっているってことですから、体調がお悪いのかも)
(――颯生の体調が)
 そして、とうとう飯マズ嫁の飯がウマい事実が、乘兒の心に暗雲を広げた。

「颯生。ちょっといいか?」
「はい!」
「お前。最近、具合はどうなんだ? 体調を崩してるとか、病気してるとかないか?」
 これはすぐにでも確かめなければ、愛妻家として生きた心地がしなかった。
「え!? 元気ですし、病気もしてませんよ。昨夜もかなり激しかったと思うんですけど……。俺、何か変に見えるんですか?」
「いや、その。ちょっと、ここ数日の食事がこれまでと違う気がして。みんな心配して……」
「えーっ。手抜きがバレちゃったんですか!? すみません。実は、栄養補助用の食材が切れてしまって、通販を頼んでいるところだったんです。あ、でも、今夜の便で届いてますから、明日の朝からはいつもと同じになりますので」
 真面目な颯生が珍しく笑って誤魔化せで答えてきた。
 だが、嫁が健康なら文句はない!
「なんだ。そうだったの――、え!? 明日の朝からいつもと同じだ!」
「はい! というより、いつも以上にいっぱい手をかけますね! 皆さんにご心配をおかけしたお詫びも込めて♡」
「――」
 たとえ我が身が病もうとも。人生更に詰んだな――と、思っても。


おしまい♪

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何をどうしたところで、乘兒のほうが「キング・オブ・気の毒攻め」だと思う(^^;)

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