朝も早よから、食堂代わりにしている広間の前・長廊下。
そこに佇み、家族たちを待ち受けていた穂純が、やけに申し訳なさそうに言った。
「おはようございます。あの、すみません。実は……、昨日着予定の宅急便が届かなくて、今日のご飯には身体にいい物が入れられないんです……」
だが、それを聞いた極楽院組・組長にして夫たる吉宗は、嬉々として声を発した。
「なんだって!?(変な漢方抜き!?)」
「姐さん、それ(ゲテモノ抜き)って本当ですか?」
子分たちもそれに続いた。
本当なら満面の笑顔で万歳三唱をしたいところだが、さすがにそこは堪えた。
しかし、内心は(やったー! 今日は一日奇跡の味付け日!! 飯ウマ、飯ウマ!!)だ。今にも小躍りしそうで、大の漢たちの四肢が、揃いも揃ってむずむずしている。
ただ、それから一秒も経たずに、穂純が照れくさそうに笑った。
「うっそでーす♪ 今日はエイプリルフールでした♪」
「え? 嘘」
「エイプリルフール!?」
「はい。ごめんなさい! でも、騙しちゃったお詫びに、ご飯はパワーアップバージョンを頑張りましたから! ささ、皆さん。たくさん食べて、今よりもっと元気になってくださいね!!」
やった! 大成功☆彡
でも、ちゃんとフォロー付き♪
――とばかりに、浮かれて、穂純が閉じられていた広間への雪見障子をスパーンと開いた。
「わ~。朝からご馳走だな」
「ほ、本当。正月みたいだな~」
吉宗と子分たちの棒読みな台詞が続いた。
「ふふふ♡」
その嘘のような本当の話が、当家ではもっとも罪深いことを、未だ嫁は知らない――。
おわる。